「産んでくれてありがとう」は子から親への最高の贈り物。生まれてきて生きづらさを訴える子どもたちが多いなかで、愛されて育った土さんの自己肯定がまぶしい。母親の穂子さんのキャラクターも強烈だが、それ以上にみごとな子離れ・親離れの物語になっていることに感動。
この春亡くなられた祖母の加納実紀代さんは、作品を見て「娘と孫を誇りに思う」とことばを残して逝かれたとか。間に合ってよかった。リスペクトしあう家族。惜しみなく口にすればよい。
上野千鶴子
社会学者/東京大学名誉教授
「ツチくん、大きくなったら君はどんな家族を作るんだろう?」
沈没家族を追ったドキュメンタリー番組のナレーションを担当していた私は、番組の最後にそう締めくくった。
まるで1960年代のヒッピーのコミューンのようで、そんな、社会のモラルに縛られない暮らしに中学生の頃憧れていた。家族に、社会に受け入れられようともがき、いらだつ父親の姿に、沈没どころか浮遊する家族の力強さをも観た。この映画こそがツチくんの作った家族ならば、僕もまた沈没家族の一員に加わりたい。
佐野史郎
俳優
息子が小さい頃、父親というものがどういうものなのかぼくにはよくわからなかった。そしてわからないまま時が過ぎた。「沈没家族」の土くんを見ていて、子供も子供というものがわからないんだと思った。だから土くんは大人になってから映画を撮った。人は時がたてば振り返るものなのかもしれない。映画のなかでは、土くんが子供の土くんと二重になっているのがおもしろい。それはそのまま土くんの人生でもあった。土くんは土くんとどこまでも歩いて行って欲しい。
息子が小さい頃、親しい仲間たちで「バブル」という子供と大人の寄り合い所帯のような共同保育をやっていた。そこで子供たちに一番熱心だったのは自分には子供のいない男性だった。「沈没家族」を見て、その頃のことが懐かしくなった。
友部正人
フォークシンガー/詩人
こういう育て方、生き方は自分にはできない―。そこから発する畏敬の念につつまれて、大きな山とか絶景を見た時の息をのむあの感じにしばらくなる。そこに登場する「山くん」はある意味とても『普通』で、それはまるで険しく崇高な大自然の中に突然ポツンとあるキオスクみたいで、ホッとして私の目から涙がどばどば出てしまう。
田房永子
漫画家
「What is Family?(家族ってなんだろう?)」本作はこの問いへのアクチュアルな回答として理解できるように思われる。私が家族社会学を通じて20年間向き合ってきた問いに、ホコさんは生活を通じて20年かけて応えてきたのだ。この映画はこれまで考え続けてきた家族定義という問題に対する一つのアンサーだ。
永田夏来
家族社会学者
ドキュメンタリーって被写体との距離感がとても大切で、それは愛情との距離感とも言えるのではないか。この映画はその温度がとても繊細で心地よい。土さんのお母さんのかっこよさの源はまわりの人に頼れること、また頼られることにあると思う。大好きです、この映画。
今泉力哉
映画監督
シングルマザーが保育人を募り、その呼びかけで集った者たちが共同生活をしながら子育てする、という、実験的共同保育のまさに”育てられた”当事者が監督。自伝的内容だが、家族概念への問い、失われた共同体・シェルター等々、映画は多くのことを語りかけていて、デビュー作にして見応えのある作品に仕上がっている。「男女共同参画が進むと日本が沈没する」と発言した政治家がいたことによって命名された、シェアハウス「沈没ハウス」であるが、命名から四半世紀、果たして沈没したのは何であったのか?
中川敬
ミュージシャン(ソウルフラワーユニオン)
昨夏、高山建築学校というところで、土くんと出会った。彼は撮影班として参加していた。穴を掘っていると助けに来てくれ、いっしょに体を動かした。めいっぱい汗水をたらし、恋愛と素生について、たくさん話してくれた。穴に水をためて潜る。さすが、彼は泳ぎが得意なようだ。
「沈没家族」を見た翌朝、自分の中にある、ぼんやりとしていた彼の輪郭が、すごい速さではっきりとし始めたのだ。知るのが少し怖かった、けれど、見れて嬉しかった。きっとこれからいろんな場所で、たくさんの人たちに見てもらうのだろう。その後の土くんに会うのが楽しみでならない。
吉田祐
ヒスロム/美術家
ひと世代近く前、恨みがある家族へ暴力的にカメラを突き付け、毒々しい印象を残すセルフドキュメンタリーが卒製を通じて多数出現した。その後も日本では家族のあり方が問われ続けるが、しばらくその手の作品を見かけなかった。実は穂子ちゃんを通じ土君が高校生の頃から知っていた。当時からドキュメンタリーに関心があると知っていたが、まさかそれまでの流れを汲みつつ斬新な形で、世代を乗り越えた「家族」を問う映画を作るとは思いもしなかった。
松林要樹
ドキュメンタリー映画監督
人間、助け合えばなんとかなる。子育てされた⼦どもの側から⾔われることって、すごい説得力を持つと思います。私のゼミで2年生のとき、土くんは「八丈島にはなぜ監視カメラがないのか」を大真面目に問う作品を作って驚かせました。今回もまた「家族とはなんだ」という困難な問いの答えを探す旅をしました。ゆっくり行くひとは遠くまで行く。窮屈な世の中にあって、大丈夫だよ!と励ましてくれる素敵なドキュメンタリーです。
永田浩三
武蔵大学 社会学部教授
順不同/敬称略